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技術資料
No.T1122 | 2011.11.11

GPC法 (SEC法)入門講座 (その2)

~ GPC装置の検出器 ~

概要

GPC法(SEC法)は、ポリマーの分子量測定法として、最も広く用いられている方法です。最近では、装置やカラム、ソフトウエアの進歩により、誰でも比較的容易に再現性のあるデータが得られるようになっています。しかし、その原理についてはあまり理解されていないことが多く、時には、誤ったデータの解釈をしてしまうことがあるかもしれません。GPC法の原理については以前に紹介しましたが、ここでは続編として、GPC法で用いられる代表的な検出器について解説します。

1.GPC装置で用いられる検出器

GPC法では、前報で述べた原理に従って試料がカラムで分離され、検出器に導入されます。GPCに用いられる検出器は、(1)濃度検出器、(2)絶対分子量を求める検出器、(3)分子構造を検出する検出器、(4)その他の情報を得る検出器などに分類されます。今回は、(1)濃度検出器の中から、最も一般的に用いられる示差屈折計について、原理と特徴を紹介します。

2.示差屈折計(RI検出器)の原理

GPC装置では最も一般的に用いられる検出器が示差屈折計(Refractive Index Detector;RI検出器)です。この検出器の原理を図1に示しますが、その名前の通り、「屈折率」の「差」を検出する検出器です。セルは石英ガラス製で、図1(a)に示すように中央を対角線に仕切った四角柱をしています。通常の状態では、サンプル側(S側)とリファレンス側(R側)には同じ屈折率の溶液(溶離液)が流れており、受光素子のある位置に光が達するように光路を調整しておきます。(図1(b)) ここで、S側に試料溶液が入ると、S側の屈折率が今までとは変化するため、光路にズレを生じて受光素子に達します。このズレの程度を電気信号に変換して出力します。微小な位置の変化を正確に計測するために、受光素子にフォトダイオードアレイを用いるか、あるいは途中にヌルグラスを配置し、光が常に受光素子の一定の位置に達するようにヌルグラスを回転させて、その回転量を計測することでズレの程度を計測し、濃度に換算します。(図1(c))

3.示差屈折計(RI検出器)の特徴 (1)

RI検出器はほとんどの化合物の検出が可能ですが、検出感度が低く、周囲の温度による影響を受けやすく、安定性が低いことが最大の欠点です。なお、S側(試料+溶離液)とR側(溶離液)の屈折率差を検出するため、試料の屈折率が溶離液よりも高ければ、ピークは正側に検出されますが、試料の屈折率が溶離液よりも低ければピークは負側に検出されます。(ただし通常の装置では、電気的に信号の極性を反転させてピークが正側に検出されるようにして測定しています) この例として、1,2,4-トリクロロベンゼン(TCB)を用いた高温GPCにより得られたポリスチレン(PS)とポリエチレン(PE)のクロマトグラム1)を図2に示します。TCBよりも屈折率の高いPSは正側に、TCBよりも屈折率の低いPEは負側にピークが検出されています。

図2 高温GPCにより得られたPSとPEのクロマトグラム1)
溶離液:1,2,4-TCB, 測定温度:140℃

この原理に従えば、溶離液と屈折率の等しい試料については、RI検出器ではピークは検出できません。非常に特異的な例として、1-クロロナフタレン(CN)を用いた超高温GPCにより得られた標準PSのクロマトグラムを図3に示します。


図3 超高温GPCにより得られた標準PSのクロマトグラム
溶離液:1-CN, 測定温度:210℃

ここでは、すべてのPSの濃度は等しいのですが、PSの分子量が低くなるにつれてピーク強度が低下し、ついにはピークが負側に検出されています。これは、CNとPSの屈折率が非常に近く、屈折率の分子量依存性のためにPSの屈折率が低下し、ある分子量を境としてCNの屈折率よりも低くなったため、このようなピークが得られていると考えられます。(従って、途中にはCNとPSの屈折率が完全に一致する分子量(=4,000程度?)が存在するはずですが、今回の測定では確認できませんでした)

これらの例から、できるだけ試料と屈折率の離れた溶離液を用いれば検出感度を上げることが可能となることが分かります。この指標となるパラメータが屈折率濃度増分(Refractive Index Increment : dn/dc)です。dn/dc(屈折率nの濃度cによる微分値の意味)は光散乱法で分子量を求める際に必須のパラメータで、図4に示す直線の傾きと定義されています。RI検出器の検出感度はdn/dcに比例します。従って、dn/dcの大きな系を用いると、より精度の高い測定が可能となります。dn/dcの値については、専門書2,3)を参照して下さい。

図4 PS溶液の濃度と屈折率の関係

4.示差屈折計(RI検出器)の特徴 (2)

RI検出器に限らず、どの検出器であっても、化合物の構造や組成、分子量などによる感度依存性が少なからず存在します。RI検出器の場合、図2に示したように溶離液に対して屈折率が「高い」か「低い」かでピークの検出される方向が異なるため、もし、そのような2つの成分がブレンドされた試料や、あるいはそのようなモノマー成分からなる共重合体を測定した場合、どのような結果が得られるのでしょうか? その例として、PSとPEをブレンドした試料の高温GPCクロマトグラム1)を図5に示します。ここでは、明らかにPSとPEのそれぞれの成分の合成ピークとなっており、このクロマトグラムから、平均分子量を算出するのは困難と考えられます。

図5から分かるように、複数の成分のブレンド試料や、組成分布を有する共重合体の場合、RI検出器では、正しい分子量を求めることができない場合があります。これについては、たとえピークが正側、または負側だけに検出される成分同士で、分子量の値が得られたとしても、誤差を含む可能性があることは容易に想像できます。しかし、一般的なブレンド試料や共重合体のGPC測定において、組成の影響を考慮して分子量計算することはほとんど行われておらず、組成依存性は無視して分子量計算を行っているのが実情です。

図5 高温GPCにより得られたPS/PEブレンド試料のクロマトグラム1)
溶離液:1,2,4-TCB, 測定温度:140℃

また、共重合体のGPC測定において、RI検出器とUV検出器(紫外検出器)を併用し、両者の検出信号強度の比を用いて組成分布を求めることが行われています。しかし、この方法で得られる組成分布が本当に正しいかどうか、これまでの例からおわかり頂けるかと思います。これが成り立つのは、あくまでRI検出器の検出感度に組成依存性がない(又は限りなくゼロに近い)場合に限られます。(実際には、そのような系は殆どないと考えられます)

5.示差屈折計(RI検出器)の特徴 (3)

もう一つの特徴が、図3に示した分子量依存性です。これが生じる理由は、低分子量領域では高分子の屈折率が分子量依存性を持つためです。RI検出器の検出感度に影響を与えるdn/dcの分子量依存性の例を図6に示します。

図6 PS/溶媒系のdn/dcと分子量の関係

図6より、分子量が約1万以上についてはdn/dcは一定ですが、それ以下については分子量依存性が見られます。このように、分子量が非常に低い成分については、RI検出器の検出感度に分子量依存性があるため、特に分子量の低い高分子の平均分子量を求める場合や、低分子量成分の量を求めるような場合(例えば、分子量1000未満の割合を求める様な場合)は、本来は感度補正をしなければ、正しい値は得られないことになります。しかし、これについても一般的なGPC測定では、検出感度の分子量依存性は無視されて平均分子量が計算されています。               

参考文献

  • 1) 香川信之, ネットワークポリマー, 32(5), 283 (2011)
  • 2) A.Theisen, C.Johann, M.P.Deacon, S.E.Harding, “Refractive Increment Data-Book for Polymer and Biomolecular Scienrists”, NOTTINGHAM University Press (2000)
  • 3) J. Brandrup, E. H. Immergut, E. A. Grulke, “Polymer Handbook 4th Ed.”, Wiley-Interscience, Ⅶ/547-Ⅶ/614 (2003)
  • 4) J. Brandrup, E. H. Immergut, E. A. Grulke, “Polymer Handbook 4th Ed.”, Wiley-Interscience, Ⅶ/580 (2003)
  • 5) N.Hadjichristidis and L.J.Fetters, J. Polym. Sci., Polym. Phys. Ed., 20, 2163 (1982)
  • ・参考文献1)(解説:「高速液体クロマトグラフィーを用いた高分子の分析」)について、別刷りをご希望の方はお問い合わせ下さい。

 

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