ホームchevron_right技術資料一覧chevron_right材料物性chevron_rightガス・水蒸気透過・透湿度chevron_rightガス透過試験について
技術資料
No.T2009 | 2020.06.03 (2023.04.28改訂)

ガス透過試験について

測定原理、規格及び、測定装置と測定事例の紹介

概要

 本技術資料では、ガス透過・水蒸気透過の試験規格と測定法、および弊社の対応状況、測定手順や弊社技術資料について解説します。一口にガス透過といっても多種多様な測定方法がありますので、用途・目的に沿った試験法を選択する一助となれば幸いです。

測定機構と試験規格

 透過度を評価する装置の多くは、図1に示す構造をしています。シート若しくはフィルム状の試料をカップ状のセルで挟み込み、片方のセルに測定したいガスを導入し、反対側のセルに透過してきたガス量を測定します。
 測定法は大きく二つに分けられ、二つのセル間に静圧差がないものを等圧法、あるものを差圧法と呼びます。また、透過したガスの量をどのような方法で定量するのかによっても測定法が分かれます。

【図1】 透過試験の測定原理

 等圧法と差圧法のメリット、デメリットを表1に例示しました。一般的に、差圧法は感度に優れ、ハイバリア用途に好適です。等圧法は実使用環境に近い測定が出来ると言われています。
 差圧法のデメリットは、実使用環境下ではない(差圧がある)事ですが、弊社実績では差圧、等圧の何れでも同程度の値を観測しており、多くのケースは問題ないと考えられます。
 一方、等圧法のデメリットは、感度を上げにくい点がありましたが、検出器の進歩により差はなくなり、検出器の種類によっては非常に高感度のものがあります(APIMS,Ca腐食法など)。

【表1】 等圧法と差圧法のメリットとデメリット

等圧法

差圧法

メリット

使用環境に即している。

高感度で計測できる。

デメリット

感度を上げにくい。

使用環境に即していない。

現状

検出器の進歩

多くの試料で等圧/差圧で差がない。*

*弊社実績(水蒸気透過でJIS Z0208とK7129-5を比較)

 ガス透過試験法の測定規格について、JIS規格に記載されている代表的な規格を表2にまとめました。測定法や検出器によってさまざまな測定規格が定められています。弊社では、表中の青色で表示した規格に対応可能です。
 弊社保有装置と対応規格を表3に、装置外観を表4に示しました。装置No.1の写真は割愛しましたが、カップ治具(JISに図面記載)と恒温恒湿槽を使用します。
 表4中の各装置写真の左側が全体写真、右側が試料を装着する部分です。装置No.2は1セル、No.5は2セル、No.3とNo.4は3セルとなっています。複数セルがある装置は、セルごとに検出器があるので多検体同時評価が可能です。但し、供給ガス種、恒温槽は、同一となる為、測定条件は同一に限られます(異なるガス種、温度の試験を一度に行う事はできない。)。このように、複数の測定規格で、同じガスについて複数の方式で評価でき、幅広い条件に対応できます。また、2020年8月頃から水素ガスの透過試験に対応する予定です。

 弊社では、JIS Z0208で値付けした標準試料を装置No.2の標準として使用し、透湿度を評価しています。また、同じ標準をつかって、装置No.4、No.5でも評価し、ほぼ同等の値を得ています。また、装置No.3~5で、同じ試料のガス透過試験を行う事で、装置間の互換性を確認しています。

 更に、測定に影響を与える恐れがある因子として、ガス成分が単成分か多成分か、という問題があります。多くの場合は、単成分の透過度の足し合わせと考えて差し支えないと考えられますが、ガス成分同士、またはガス成分と試料が相互作用を及ぼしあう組合せの場合は、単成分ガスと混合ガスでは異なる結果が得られる場合があります。このような場合には、検出器としてセンサー類を用いる事が必要となります。JISで規定されているセンサーは単成分検出センサー(酸素または水)なので混合ガスの一成分にしか対応できません。多成分の混合ガスを評価できるのは、JIS法ではGC法となります(APIMSは水以外のガスも検出できますが、JISでは規定されていません。)。弊社では、GC法で混合ガスに対応可能です。

 

【表4】 装置外観と測定部

装置No.2:L80-5000(Lyssy社製)

装置No.3:BT-3型(東洋精機製作所製)

 

  

 

装置No.4:GTR-3000XATA(GTRテック社製)

装置No.5:Deltaperm DP-UH2C(Technolox社製)

 

 

 

測定手順と解析事例

 センサー法以外の手法では、透過したガス量を経時で評価し、ガス透過度を算出します。
 JIS K7126-1(差圧法-圧力)を例にとり、測定手順およびデータの解析法についてご紹介します。

 まず、装置に合わせて試料から試験片をサンプリングします。多くの場合、セルの内径は70~80mmφなので、100mm角の試料から切り出します。
 試験片の厚みを測定後、装置に装着します。この規格では、透過ガス量を圧力で評価するため、試料中の溶存ガスが測定の妨害成分となります。そのため、まず、試料状態調整のため、両方のセルを真空にひき、試料中の溶存ガスを除きます(デガスと呼ぶこともあります。)。
 状態調整後、片方のセルに測定対象ガスを導入し、一定の圧力に保持します。しばらくすると、反対のセルにガスが透過してくるので、透過量を時間に対して記録します(図3)。傾きが一定になった部分からガス透過度を算出します(式1)。透過度に試料厚みを乗じると、透過係数になります。

【図2】 透過試験の手順 左から右に作業が進みます。
【図3】 データ解析例

 正しい測定をするためには、気泡や異物の無いシートをサンプリングし、デガスをきちんと行い、平衡に達してからデータを採取する必要があります。

【図4】 透湿度への試料厚みの影響

 特に、一般的に透過性は試料厚みに反比例するため、試験片内での厚みムラは異常データに繋がります。反比例する一例として、弊社技術資料No.T1007に掲載したデータを図4に再掲します。装置は、装置No.2(表3)を用いました。材質ごとに線の位置は異なりますが、試料厚みに対してほぼ傾き-1のラインにのっており、厚みに対して反比例の関係がある事が分かります。

 

 ガス透過度を求める式(1)にもあるように、透過度は試料面積だけでなく、透過させたいガスの圧力差(分圧差)にも影響を受けます。弊社技術資料T1307で透湿度の温度依存性を紹介した事例がありますので、再掲致します。この技術資料ではPETフィルムの水(水蒸気)透過度(透湿度とも呼びます。)を、相対湿度および温度を変えて評価しています。装置は、装置No.4(表3)を用いました。
 相対湿度は温度で決まる飽和水蒸気圧に対する水蒸気圧の比で定義されます。即ち、高い相対湿度とは、高い水蒸気分圧である事を意味します。図5より、各測定温度で相対湿度を変化させると、直線的に透湿度が大きくなりました。温度によって傾きが異なるのは、飽和水蒸気圧が温度によって大きく異なる為です。そこで、各測定結果を水蒸気圧(蒸気圧)でプロットし直しました(図6)。プロットし直すと、異なる温度で測定した結果がほぼ同一ライン上に整理できました。温度や蒸気圧によって傾きが異なるのは、PET樹脂の状態(熱膨張、吸水の程度)が測定条件によって変化するためだと考えられます。

 図3のデータを取得すると、ガス透過度以外に、透過性に影響するパラメータを詳細に解析する事が可能です。
 ガス透過係数は、ガス溶解度係数とガス拡散係数の積で表されます。図3の立ち上がり時間を解析してガス拡散係数を評価し、各々のパラメータを求める事が出来ます。弊社技術資料No.T1827では、ポリスチレンシートの酸素透過試験を行い、各パラメータはどのように変化するのか紹介しています。評価結果を図7に再掲します。この評価では装置No.5(表3)を用いました。
 ガス透過係数、拡散速度は温度とともに増加します(図7の左、中央)。一方、溶解度係数は低下しました。ガスの溶解度が温度とともに低下するのは、液体の場合と同じ挙動です。ガス透過度を制御するには、拡散係数と溶解度係数をそれぞれどのように変えるのか、考える必要があります。

【図7】 ポリスチレンシートの酸素ガス透過挙動の温度依存性
左:透過係数、中央:拡散係数、右:溶解度係数
【図8】 拡散係数の分布評価

 また、図3のデータを理論と比較すると、拡散係数の分布を評価できます。これにより、例えばバリア層を含むシート中にガスを通しやすい欠陥があるのか、それとも、バリア層そのものの質が低下しているのか、を判断する指標を得る事が出来ます。
 図8に成形速度を変えて作成した3層シート(中間層がバリア層)を評価した事例を示します。この試料は低速で成形すると、ガス透過度(図中に記載)が大きくなりました。拡散係数の分布を評価すると、低速成形するほど拡散速度の分布が広がっていました。この事は、試料中に拡散係数が大きい部位、即ち、ガスを通しやすい部位がある事を示唆しています。試料の断面観察を行ったところ、低速成形試料のバリア層には厚みムラがある事が分かりました。

 弊社ではこのほかにも豊富な測定事例を有しています。複数の保有装置および豊富な経験を活用し、ご要望にお応えします。

 最後に、参考としてガス透過度、水蒸気透過度(透湿度)の単位換算表をご紹介します(表5)。
表中の片括弧は、算出式の番号です。前提条件が異なると若干パラメータは変化します。ご了承ください。
 併せて、現時点でのガス透過関連技術資料の一覧を表6にまとめました。

*水蒸気透過度の単位。40℃90%Rhで測定。40℃の飽和水蒸気圧=73.86hPa=7.386kPa
  前提条件
  ガス、水蒸気ガスは理想気体として取り扱う。
  基準状態は、SATP(25℃、1mol標準圧力の理想気体の体積は、24.8L、標準圧力:100kPa)
  1atm=101.325kPa=760mmHg

算出式
1) 1/760 7) 24800×101325×60×60×24
2) 1/60/60/24/24800/101325 8) 24800×60×60×24×101325/760
3) 18/24800×7.386*0.9/101.325 9) 18×60×60×24×7386×0.9
4) 760 10) 24800/18×101.325/7.386/0.9
5) 760/60/60/24/24800/101325 11) 24800/18/760/7.386/0.9×101.325
6) 760×18/24800×7.386×0.9/101.325 12) 1/18/60/60/24/7386/0.9

 

【表6】ガス透過関連技術資料

No.

タイトル

資料番号

1

差圧式ガス・水蒸気透過試験装置(GC法)

A1101Y

2

高感度ガス透過試験装置

A1703Y

3

PETフィルムの透湿度

T1307Y

4

拡散係数の評価 ガス透過試験装置の応用

T1407Y

5

ガス透過の異方性

T1803Y

6

高感度ガス透過試験装置による評価 ― 拡散係数

T1827Y

7

プラスチックへの気体透過の現象論の解説Ⅰ:透過のイメージについて

T1112Y

8

プラスチックへの気体透過の現象論の解説Ⅱ:無孔膜での透過の現象論

T1113Y

9

プラスチックへの気体透過の現象論の解説Ⅲ:気体透過係数の現象論

T1114Y

10

プラスチックへの気体透過の現象論の解説Ⅳ:透過の形式について

T1115Y

11

プラスチックへの気体透過の現象論の解説Ⅴ:等圧法と差圧法の測定の説明

T1116Y

適用分野
ガス透過、ガスバリア、水蒸気透過、透湿度、拡散
キーワード
シート、フィルム、基板

CONTACTぜひ、お問い合わせください

弊社の分析技術について、納期やコストについてご検討の方は、
お問い合わせフォームより問い合わせください。