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技術資料
No.T2123 | 2021.11.26

難溶解性樹脂の構造解析

~ 紫外線照射によるPEEKの表面劣化解析 ~

概要

高分子材料を劣化させる環境要因として、太陽光に含まれる紫外線(UV)があります。極めて高い機械強度、耐熱性等を示すポリエーテルエーテルケトン(PEEK)にUVを長時間照射し、その構造変化をX線光電子分光法(ESCAまたはXPS)及び赤外分光法(IR)により解析しました。

分析手法

1)ESCA

装置:VersaProbeⅡ(アルバック・ファイ製)
条件:X線源AlKα、X線照射径100μmφ

2)IR

装置:FT-IR-4100(日本分光製)
条件:ATR法(結晶板ZnSe)、検出器TGS

試料

・試料:PEEK板(市販品)【図1】
・UV照射条件:
 装置  アイスーパーUV(岩崎電機製SUV-W161)
 方式  メタルハライドランプ方式
 照射強度  100mW/cm2(波長300~400nm)
 照射時間/温度/湿度  200時間/63℃/50%

【図1】試料外観

結果及び考察

1.ESCAによる構造解析

ESCAの分析深さは数nmで、試料最表面の組成や化学状態を解析できます。PEEK板のワイドスキャンスペクトルを図2に示します。UV照射でO濃度が増加し、試料表面の酸化が推定されました【表1】。


C1sピークを詳細解析した結果、UV照射後にCOO成分が検出されました【図3、表2】。これらの結果より、UV照射によるPEEK分子鎖の切断や光酸化といった構造変化が考えられます1, 2)


2.IRによる構造解析

IRは官能基解析に優れた手法で、今回の測定条件における分析深さは1m程度です。ESCA分析結果を検証するため、PEEK板(UV照射前後)のIR測定を行いました【図4】。UV照射後、C=O基及びOH基に由来するピーク(C=O伸縮振動:1720cm-1付近、O-H伸縮振動:2800~3700cm-13)が検出されました。この結果はESCA分析結果「UV照射後にCOO成分を検出」と整合し、UV照射によるCOOH基の生成が推察されました。COOH基はUV照射による分子鎖切断で生じた末端基と考えられ1)、UV照射によるPEEK分子鎖の切断や光酸化といった構造変化を支持しました。

まとめ

ESCA及びIRによりPEEK板を測定し、UV照射による分子鎖の切断や光酸化といった劣化を推定しました。ESCA及びIRは、試料表面の構造解析に優れた手法です。分析時に試料を溶解する必要がないため、PEEKなどの難溶解性樹脂に対して有用となります。
ESCAは元素組成や化学状態を解析でき、IRはESCA測定で判別困難なOH基を解析できます。本手法はPEEK以外の難溶解性樹脂にも適用でき、UV以外の熱や薬品などによる構造変化も評価可能です。

引用文献

  • 1) S. Giancaterina et al., Polymer Degradation Stability, 68(2000) 133.
  • 2) Hugh S. Munro et al., Polymer Degradation Stability, 19(1987) 353.
  • 3) V. Mylläri et al., Polymer Degradation Stability, 109(2014) 278.
適用分野
プラスチック・ゴム、その他有機製品
キーワード
PEEK、紫外線、UV、劣化、表面分析、X線光電子分光法、ESCA、XPS、赤外分光法、IR、ATR法

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