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技術資料
No.T2201 | 2022.05.19

難溶解性樹脂の構造解析

~紫外線照射したアラミド繊維の表面劣化解析~

概要

高分子材料を劣化させる環境要因として、太陽光に含まれる紫外線(UV)があります。エンジニアリングプラスチックの一つであるアラミド樹脂(全芳香族ポリアミド)に紫外線を長時間照射し、その構造変化を走査型電子顕微鏡(SEM)及びX線光電子分光法(ESCAまたはXPS)により解析しました。

分析方法・分析装置

1)SEM

装置:JSM-7100F(日本電子製)
条件:加速電圧1kVまたは5kV

2)ESCA

装置:VersaProbeⅡ(アルバック・ファイ製)
条件:X線源AlKα 、X線照射径100µmφ

【図1】 試料外観
(アラミド繊維を治具に巻き付けた状態)

試料

  • 試料:アラミド繊維(市販品)【図1】
  • UV照射条件:

    装  置  アイスーパーUV(岩崎電機製SUV-W161)
    方  式  メタルハライドランプ方式
    照射強度  100mW/cm2(波長300~400nm)
    照射時間/温度/湿度  200時間/63℃/50%

結果及び考察

1)SEMによる形態観察

SEMは電子線を試料表面に照射し、光学顕微鏡では観察不可能なµm~nmレベルの微細構造を観察できる手法です。アラミド繊維のSEM像を図2及び3に示します。UV照射後、繊維表面におけるクラック形成及び短繊維化を確認しました。このような構造変化は機械強度などの性能低下因子となります1)

【図2】 アラミド繊維のSEM観察像(UV照射前後、低倍率)
【図3】 アラミド繊維のSEM観察像(UV照射前後、高倍率)

 

2)ESCAによる構造解析

ESCAは数nmの分析深さで、試料最表面の組成や化学状態を解析できます。アラミド繊維のワイドスキャンスペクトルを図4に示します。UV照射後、O濃度が増加し、試料表面の酸化が推定されました【表1】。また、UV照射前後ともにアラミド繊維以外の元素(Si, Na, P, S)が検出されました。これらの元素は試料表面に付着した汚染物の他に、PとSは繊維表面の油剤に由来する可能性も考えられます2)

【図4】 アラミド繊維のワイドスキャンスペクトル

 

【表1】 表面組成分析結果(単位:atom%)

アラミド繊維

C

N

O

Na

Si

P

S

UV照射前

75

4

16

1

4

< 1

< 1

UV照射後

57

8

31

2

1

< 1

< 1

 

C1sピークを詳細解析した結果、UV照射後にCO及びCOO成分の増加が推定されました【図5、表2】。これらの結果より、UV照射によるアラミド分子鎖の切断や光酸化といった構造変化が考えられ1, 3)、SEMで観察されたクラック形成及び短繊維化の主な原因と判断できます。

 


【図5】 アラミド樹脂のC1s高分解能スペクトル
(Yスケールはメインピークで規格化)

【表2】 C成分解析結果

アラミド繊維

ピーク面積強度比(%)

C-C

C-N、

C-O    

C=O

COO

UV照射前

68

18

11

3

UV照射後

32

46

14

7

 

まとめ

SEM及びESCAは、試料表面の構造解析に優れた手法です。分析時に試料を溶解する必要がないため、アラミド樹脂などの難溶解性樹脂に対して有用となります。
SEMは表面形態を確認でき、ESCAは表面組成や化学状態を解析できます。今回はアラミド樹脂を測定し、UV照射によるクラック形成や短繊維化が分子鎖の切断や光酸化といった構造劣化に起因することを推定しました。本手法はアラミド樹脂以外の難溶解性樹脂にも適用でき、UV以外に熱や薬品などによる構造変化も評価可能です。

参考文献

  • 1) H. Zhang et al., Polymer Degradation and Stability, 91 (2006) 2761
  • 2) 日本分析化学会編,高分子分析,丸善出版(2013)181
  • 3) J. Luo et al., Polymer Degradation and Stability, 167 (2019) 170

 

適用分野
プラスチック・ゴム、その他有機製品
キーワード
アラミド繊維、全芳香族ポリアミド、エンジニアリングプラスチック、紫外線、UV、劣化、表面分析、走査型電子顕微鏡、SEM、X線光電子分光法、ESCA、XPS

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