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【技術資料】LDI-TOF/MSによる有機EL画素の解析

技術レポート:No.T2202 / 2022.6.21


概要

有機EL(エレクトロルミネッセンス)パネルは、スマートフォンやテレビ、ゲーム機等の様々なデバイスに用いられています。市販デバイスから有機ELパネルを取り出し、そのままLDI-TOF/MS測定することで画素毎の材料解析を行いました。

分析方法

MALDI(マトリックス支援レーザー脱離イオン化)-TOF/MSは一般的にはタンパク質、ペプチドや合成高分子といった比較的分子量が大きな試料の測定に用いられる装置です。MALDI-TOF/MSでは試料分子のイオン化のため、紫外レーザーのエネルギーを吸収し試料分子に電荷を授受するマトリックスを使用しますが、レーザー光の吸収のためマトリックス分子の多くがベンゼン環や複素環を有しています(装置紹介A2201参照)。
 一方、有機EL材料も同様にベンゼン環や複素環を多く有しており、それ自身がマトリックスとして作用すると推測されます。今回、有機ELパネルをそのまま測定するにあたり、マトリックスを使用しないLDI(レーザー脱離イオン化)という方式を用いて、LDI-TOF/MS測定を行いました。また、レーザー光の直径は可変で最小10μm径(装置に依存)ですので、有機ELパネルのRGB画素それぞれにレーザー照射して画素毎の解析が可能と考えました。
 RGB画素の配置を把握するため、予め通電状態のディスプレイをデジタルマイクロスコープで撮影しました。その後市販デバイスを分解し、有機ELパネルを取り出しました。パネルの一部をLDI-TOF/MSに導入し、画素毎にレーザーを照射して(図1)MSスペクトルを取得しました。

【図1】有機ELパネルのLDI-TOF/MS測定イメージ

【図1】有機ELパネルのLDI-TOF/MS測定イメージ

結果

ディスプレイのデジタルマイクロスコープ画像を図2に示します。画像から、RGB画素が規則的に配置されていることが分かります。また画素1つのサイズは概ね10〜20μm程度と推測されました。

【図2】市販デバイス(ディスプレイ)のデジタルマイクロスコープ画像

【図2】市販デバイス(ディスプレイ)のデジタルマイクロスコープ画像

LDI-TOF/MS(レーザー径:10μm)により得られた画素毎のMSスペクトルを図3に示します。各画素で共通している材料(保護層、正孔層)の他に、画素毎に発光層や補助層由来と考えられるイオンが検出されました。検出イオンのまとめを表1及び推定構造を図4に示します。有機EL材料は構造中にベンゼン環や複素環を多く含み、レーザーのエネルギーを効率よく吸収することから、それ自体がマトリックスとして働くことで周囲の成分のイオン化を促し、LDI測定が可能であったと考えられます。尚、MALDI-TOF/MS装置は原理上質量精度がそれほど高くないため、詳細な構造解析はパネル抽出液のLC-TOF/MS等の手法(図5参照)を組み合わせる必要があります。

【図3】画素毎のLDI-TOF/MSスペクトル

【図3】画素毎のLDI-TOF/MSスペクトル

【表1】検出イオンまとめ   
部位         m/z    

保護層
  818
R画素
638,612
G画素
  675
B画素
  729
正孔層
  678
左:保護層 m/z 818  右:正孔層 m/z 678

【図4】推定構造(一例)

【図5】パネル抽出液のLC-TOF/MS解析結果(参考)

【図5】パネル抽出液のLC-TOF/MS解析結果(参考)

まとめ

有機ELパネルを直接LDI-TOF/MS測定することで、画素毎の材料解析が可能です。画素毎に用いられている材料のスクリーニング等に有用な手法と考えられます。位置的な情報は失われますが、パネル抽出液のLC-TOF/MS解析から各成分の精密質量が得られ、両手法を組み合わせることで総合的に解析可能です。
 本技術は有機ELパネルに限らず、様々な試料における局所的な質量分析に応用できる可能性があると考えられます。

適用分野 : フラットパネルディスプレイ、電池・半導体材料

キーワード : 有機EL

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