概要
TG-DTA(熱重量測定-示差熱分析)は、一定のプログラムで試料温度を変化させた場合の重量変化、及び基準試料との温度差を測定する手法で、種々の化学変化や物理変化を追跡できます。このTG-DTAにMS(質量分析計)を接続した装置がTG-MSです。TG-MSにより試料から発生するガス成分の定性分析や分解反応などの追跡が可能となります。(表1)
ここでは、高分子材料の熱分解挙動を解析した例を紹介いたします。
有機材料 | 合成品中の残留溶媒の確認、熱安定性評価 |
高分子材料の熱分解挙動解析 | |
燃焼時の有害ガス分析 | |
無機材料 | 鉱物の熱分解挙動解析 |
セラミックス焼結時の発生ガス分析 |
試料温度 | 室温~1550°C |
MS質量範囲 | 1~410 u |
測定雰囲気 | 不活性ガス(He) |
疑似空気(He/O2) |
高分子材料の発生ガス分析
高分子材料は高温下で分解しますが、その反応は複雑なため、分解後の材料を分析して分解挙動を解析する事は困難です。これに対し、発生するガス(熱分解生成物)を分析する事により、熱分解挙動の解析が可能となります。
測定例1 (PTFEの熱分解挙動)
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は耐化学薬品性だけでなく耐熱性にも優れており、-100~260℃まで連続使用可能な材料です。そこで、高温下でどのように熱分解するか、その挙動を解析しました。
先ず高分子材料の識別や組成分析に使われる、既存手法の熱分解GC-MSでPTFEを分析した結果を図1に示します。PTFEは熱によりほぼ100%解重合し、モノマーであるテトラフルオロエチレンのピークのみが観測されます。ここで、クロマトピークの幅が一般的な高分子材料より広いことから、分解反応が遅い事が予想されます。しかし、熱分解GC-MSでは温度に対する分解進行の挙動は追跡出来ません。
そこで、テトラフルオロエチレン(C2F4)の分子イオン(m/z 100)に着目し、He雰囲気でTG-MS測定した結果を図2に示します。
TG曲線では500℃付近から分解による重量減少が起きている事が分かります。
これに対し、イオン強度のプロファイルからは、より低温の400℃より熱分解が進行し始め、広い温度範囲にわたって徐々に分解が進行している事が確認されました。
MSによる検出を行う事で、TGでは検知困難な微量のガス発生も追跡でき、より詳細な熱分解挙動の解析が可能となります。
測定例2 (強酸性イオン交換樹脂の熱分解挙動)
ベンゼンスルホン酸型の強酸性イオン交換樹脂(図3)は水処理などで幅広く使われる材料ですが、廃棄時に加熱された場合、有害なSO2などの発生が予想されます。
実際に先程と同様の熱分解GC-MS測定を行うと、予想通りSO2が検出される他、ベンゼン骨格由来のベンゼン、トルエン、及びスチレンなどが発生する事が分かりました。
そこで、加熱時にこれら成分がどのように発生しているか、分子イオンをTG-MSによりモニターして解析しました。その結果を図4に示します。
なお、今回の測定では800℃以降も分解が緩やかに継続したため、横軸を時間としています。
イオン強度プロファイルより、SO2(m/z 64)は20分(240℃付近)と比較的低温から発生し始めている事が分かります。そして30分(350℃)以降にベンゼン、トルエン、及びスチレンと言った芳香族系の化合物が、遅れて発生している事が分かりました。
この事より、熱的に不安定なスルホン酸基(-SO3)の分解が最初に起こり、その後CH2-CH2部分の切断が起きて分解が進行していると推定されました。
TG-MSを用いて発生ガス分析を行う事により、分解がどの様な段階を経て進行しているかについても解析が可能です。