概要
ポリマーフィルムの撥液性や接着性等の性能には、その表面にある官能基(カルボキシ基(COOH)等)が影響します。本資料では、X線光電子分光法(ESCAまたはXPS)によってポリウレタンフィルム表面の化学状態を分析し、化学修飾法と組み合わせたカルボキシ基量と撥油性の関係を解析した事例を紹介します。
分析装置
- 装置 : VersaProbeⅡ(アルバック・ファイ製)
- 条件 : X線源 AlKα (1486.6eV)
試料
ポリウレタンフィルム 3検体(n-HD接触角※ : ①4.8°、②9.8°、③18.9°)
※n-ヘキサデカン接触角 : 大きいほど撥油性が高い
結果及び考察
1)表面官能基の解析
ESCAは試料にX線を照射して発生する光電子を検出する手法で、ピーク位置(結合エネルギー)から構成元素や化学状態、ピーク強度から組成を解析できます。分析深さはnmオーダーで、ポリマーの分析で一般的な赤外分光法(IR)と比べて極表面の化学構造を解析可能です。
撥油性が異なるポリウレタンフィルムのESCA測定を行い、酸素(O1s)スペクトルを比較した結果、C=O(532eV)及びC-O(533eV)のピーク強度に違いが確認されました【図1】。ピーク波形分離によって求めたC=O/C-O比率はn-HD接触角と相関し、C=O/C-O比率が低いほど撥油性が高い傾向でした【図2~3】。
【図1】撥油性が異なるポリウレタンフィルムのO1sスペクトル
【図2】ポリウレタンフィルム②のO1sピーク波形分離結果
【図3】C=O/C-O比率とn-HD接触角の関係解析結果
2)カルボキシ基の定量解析(化学修飾ESCA)
ESCAでは撥油性と関係するC=Oが、カルボキシ基(-COOH)であるかウレタン結合(-NH-CO-O-)であるかを判別できません。このような場合は化学修飾法が有効です。化学修飾法は特定の官能基と選択的に反応する試薬を用いてマーカー元素を導入(誘導体化)する手法で、ESCAと組み合わせて表面官能基を定量的に評価できます。今回はトリフルオロエタノール等を用いた化学修飾法により、フッ素をマーカー元素としてカルボキシ基の定量解析を行いました1)。
【図4】撥油性が異なるポリウレタンフィルムの
F1sスペクトル(化学修飾後)
【図5】カルボキシ基量とn-HD接触角の関係解析結果
まとめ
ESCAにより、ポリマーフィルムの性能に影響する表面官能基を解析できます。本資料では、化学修飾法を組み合わせてポリウレタンフィルムの表面カルボキシ基量を評価し、撥油性との関係を明確化しました。
ESCAはポリマー以外の有機材料に加えて無機材料も分析できます。また、化学修飾ESCAは表面水酸基(OH)も定量可能であり、GPC等の他分析とあわせて劣化因子解析にも有用です2)。
参考文献
| 1) | 白水ら: 表面化学, 15(1), 34(1994) |
| 2) | 中西ら: 成形加工, 36(7), 282(2024) |