概要
高分子レオロジーは高分子材料物性の解析や成形加工時の挙動の解析に必要不可欠な手段です。この講座ではレオロジーの活用に必要な基礎知識について解説します。高分子材料のレオロジー特性は、たいていの場合、粘弾性が支配的です。ポリマー、プラスチック、合成樹脂と呼ばれる高分子材料の持つ粘弾性を評価するために知っておいた方が良い知識や考え方の基礎になる点を4回にわたり解説します。分かり易くするために、厳密性を犠牲にした部分があることを最初にお断りしておきます。より踏み込んだ勉強を志された方のために、この第1回の末尾に参考文献を掲出しておきます。
1. はじめに
ポリマーあるいはプラスチックの加工では、材料を溶融状態にして目的の製品を得ます。例えば、ペットボトルやポリエチレン製の灯油缶などは、図1に示したように溶融したポリエチレンテレフタレート(PET)や高密度ポリエチレン(HDPE)を中空の棒状の形状で押し出した後、気体を吹き込んで膨らませて型に押し当てることで所定の形に成形します。この場合、中空の紐状のストランドを押出し、中空部に空気を吹き込むことにより、膨らませます。また、製品を軽量化するためや断熱性を高めるために、発泡スチロールのように内部に細かい気泡を持たせる場合もあります。これらの場合、破裂しないで成形できるためには、樹脂壁面が均一に引き伸ばされなければなりません。つまり、図2に示したように、細くなったところがさらに細くなるようでは、加工を進めると破断してしまい、製品が得られません。細くなると変形しにくい方が均一に引き伸ばされます。こういった挙動を評価し、高性能化する手段として、レオロジー測定(粘弾性測定)は非常に重要です。
本講座では次に示した順で4回に分けて高分子レオロジーの基礎を理解するために必要な点について解説を加えます。
第1回
1. はじめに
付録 更に勉強したい方へ向けた参考文献
レオロジーの基礎の教科書
測定装置に関する情報
第2回
2. 評価する手段としてのレオロジーが重要である理由
3. レオロジーの解析での重要なポイント:温度と時間及び解析の本質を表す量(不変量)について
3.1. 温度と時間
3.2. 時間について
3.3. 座標によらない重要な量 不変量
3.4. 対数を使う意味
第3回
4. レオロジーの測定について
4.1. 測定評価する流動の様式
4.2. レオロジーで測定されるパラメーター
4.3. レオロジー測定で得られる観測量(物理量とパラメーター)について
第4回
5. レオロジーのモデルと高分子材料の溶融液のレオロジー
5.1. レオロジーの挙動を表すためのモデルと高分子材料融液のレオロジー挙動
5.2. 高分子材料融液のレオロジー挙動の例
5.3 高分子材料溶融液のレオロジーの特徴
6. まとめ
付録 更に勉強したい方へ向けた参考文献
レオロジーの基礎の教科書
1) レオロジーの基礎理論; Markus Reiner (山田嘉昭, 柳澤延房 訳), コロナ社 (1981)
2) キッチンで体験 レオロジー:、尾崎邦宏, 裳華房 (1996)
3) レオロジーの世界‐基本概念から特性・構造・観測法まで; 尾崎邦宏、森北出版 (2011)
4) 分散系のレオロジー; 松本孝芳, 高分子刊行会 (1987)
測定装置に関する情報
5) レオロジー特性測定法とその装置; 上田隆宣, 日本ゴム協会誌, 88, 303-308 (2015)