概要
気体などの低分子は、多くの高分子材料を透過することができます。気体透過を理解することを目的として、”膜“に対する低分子の透過現象についてシリーズで述べていきます。
ある空間を隔膜で仕切って、二つの室に分けても、必ずそれぞれの室での自由エネルギーが等しくなるような変化が起こります。これが、透過現象の本質です。模式的な説明を図1に示しました。
図1 透過現象のイメージ
低分子の入っている箱に隔膜Cを挿入して、A室とB室の二つに区切ります。このとき、図1ではA室の方が低分子の数が多いので、A室、B室での低分子の濃度を均一にしようとする“力”(青色の矢印で示しました。)が働きます。この力の源が自由エネルギーです。理想気体の場合は圧力Pと体積Vの積P・Vがエネルギーです。部屋の体積が変化しなければ、圧力の差が力の源です。(ただし、温度は一定とします。)
このような透過現象は様々な材料で検討されています。主なものをあげると、表1のように分類できます。
電荷の有無 |
孔の有無 |
特徴 |
電荷膜 |
多孔性膜 無孔性膜 |
電荷の分布 |
非電荷膜 |
多孔性膜 |
ろ過 (孔径 10μm以上) 精密ろ過 (孔径 100nm~10μm) 限外ろ過 (孔径 3~100nm) |
無孔性膜 |
金属膜 ガラス膜 高分子膜 |
電荷膜は燃料電池などで使用されます。ただし、気体の透過用に使用した例はあまり知られていないようです。
非電荷膜の透過性膜には多孔性と無孔性があります。これらは、孔の大きさや貫通、盲通で分類されますが、多孔性膜で気体の透過を行う場合、孔径5から30nmで貫通した孔があるものが用いられます。気体の分離膜として使用される例がよく知られています。一方、盲通孔がある場合や孔が低分子の大きさより小さい場合、無孔性と考えることができます。
膜には金属やガラスなどの無機膜と高分子(ポリマー)などの有機膜がありますが、無孔性膜の場合、無機膜と高分子膜では透過性が極端に異なります。高分子膜は、無機膜に比べて透過性が高い膜です。透過性を低くしたい場合、無機材料との複合化などの様々な工夫が必要となります1)。ただし、無機材料の性質や形状によっては逆に透過性が向上する例が知られています2)。
本シリーズでは非電荷膜での透過現象について、その機構や実験方法について示してます。
【参考文献】
- 1) “Permeability of Polymer/Clay Nanocomposites : A Review”, G.Choudalakis, A.D.Gotsis, Eur.Polym.J., 45, 967 (2009)
- 2) “Gas Transport Behavior of Mixed – Matrix Membranes Composed of Silica Nanoparticles in a Polymer of Intrinsic Microporosity (PIM-1)”, J.Ahn, W.-J.Chung, I.Pinnau, J.Song, Naiying Du, G.-P.Robertson, M.D.Guiver, J.Membrane Science, 280, 346 (2010)
気体透過現象を解説した、日本語で読める文献としては、少し古いが次のような文献があります。
- 3) “ケイ素含有高分子分離膜ポリ[1-(トリメチルシリル)-1-プロピン]の気体、気体混合物透過挙動”,小谷 壽, 高分子, 37, 452 (1988)
- 4) “非荷電膜透過の基礎”, 小谷 壽, 表面, 29, 825 (1991)