概要
ナノビーム電子回折(NBD)法はナノメートルオーダーの局所領域の結晶構造を調べる手法です。一方、ナノビーム電子回折(NBD)マップ(別称;4D-STEM)はこのNBDと走査観察を組み合わせた手法であり、試料上を二次元的に走査しながら各位置で電子回折図形を取得することで、結晶構造の二次元分布(NBDマップ)を取得できます。本資料では、NBDマップを用いたAuナノ粒子の結晶構造解析例を紹介します。
試料
Auナノ粒子(市販品)
装置
- FE-TEM(日本電子製 JEM-F200)
- 4D-STEM(Gatan製ナノビーム電子回折システム)
分析手法
NBDは、ナノメートルオーダーの領域に電子線を照射し微小領域の結晶構造情報を得る手法です。結晶試料の場合はスポット状の回折図形となり、この図形の解析により結晶構造情報が得られます。NBDマップは電子線を走査しながら測定することで、結晶構造情報を二次元的に得る手法です(図1)。
【図1】ナノビーム電子回折マップの測定模式図と電子回折図形から得られる情報
結果
1)Auナノ粒子の結晶方位解析
粒子サイズが数~10nm程度のAuナノ粒子に対して、図2a全体を2nm間隔で電子線を走査させてNBDマップを取得しました。そのうち、測定点1および2の電子回折図形を図2bおよびcに示します。Auのシミュレーション図形と比較したところ、測定点1はAu[111]、測定点2はAu[110]の結晶方位と一致しました。この結果から、数nm領域を狙って結晶構造解析できることが分かります。
【図2】Auナノ粒子のナノビーム電子回折マップによる結晶方位解析
2)仮想像観察
NBDマップでは、電子回折データから特定のスポットを用いた像の再構成ができます。これにより対応する構造(結晶方位や結晶相、結晶部分/非晶質部分など)の存在領域が可視化され、仮想的な像が得られます。
図3bのようにAu[111]回折スポットに対応する領域(網掛部)を選択して像を再構成しました。このように回折スポットを用いて再構成した像を仮想暗視野像(図3c)と呼び、Au[111]回折スポットをもつ粒子のみを選択的に可視化できました。
【図3】Au[111]の仮想暗視野像
まとめ
Auナノ粒子に対してナノビーム電子回折マップを用いることで、微小領域を狙って結晶方位の解析ができます。今回は特定方位の粒子の存在箇所も仮想暗視野像により確認できました。
このようにNBDマップはナノメートル領域の結晶構造の違いを可視化して直感的に把握することができます。結晶の情報を含む仮想暗視野像だけでなく、試料を透過したスポットから再構成し組成や結晶/非晶の情報を含む仮想明視野像の取得も可能であり、材料開発や半導体デバイスの解析に活用できます。