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技術資料
No.T2108 | 2021.08.11

潤滑膜の分析手法

~潤滑油により形成される膜成分の膜厚、微細構造、元素分布解析(膜内部)~

概要

 モリブデン(Mo)含有潤滑油は自動車エンジンオイルの代表的な摩擦低減剤で、摩擦面に形成される膜成分(潤滑膜)が低摩擦化に寄与します。透過電子顕微鏡(TEM)及びEDS(エネルギー分散型X線分析器)により潤滑膜の膜厚や微細構造、元素分布を解析した事例を紹介します。

試料

以下の通り調製した潤滑膜の分析を実施しました。
Mo系摩擦低減剤を含む市販エンジンオイルを金属基板上に塗布
 →摩擦試験(表面温度50℃,試験時間5~180min)【図1】

事例紹介

1)膜厚解析

 潤滑膜の断面を作製してTEM観察を行うことで、潤滑膜の膜厚を解析可能です。摩擦試験180min後の潤滑膜は摩擦試験5min後と比べて厚く、潤滑膜が経時的に形成される様子を確認できました【図2】。

【図2】 潤滑膜の断面TEM像

2)微細構造解析

 低摩擦化は、二硫化モリブデン(MoS2)の層滑りに起因することが知られています1~3)。このため、潤滑膜中におけるMoS2層状構造の把握は重要です。
 高倍率の断面TEM像における輝度プロファイルを詳細解析することで、摩擦試験180min後でMoS2層状構造が確認できました。MoS2層状構造は摩擦試験5min後では確認できず、経時で潤滑膜中に形成されていると考えられます【図3】。

【図3】 潤滑膜の断面TEM像(左)及び輝度プロファイル(右)
※摩擦試験180min後の観察結果。摩擦試験5min後は同様の構造が確認されず。

3)元素分布解析

 断面TEM像のEDS分析より、潤滑膜内部の元素分布を解析できます。
 摩擦試験180min後のEDS元素マッピング【図4】より、Moは膜全体に分散し、特に表層で多い様子が確認されました。また、添加剤に由来する元素のうち、ZnはMo分布と同傾向であり、MoS2形成に寄与する可能性が推定されます4~5)

【図4】 潤滑膜の断面TEM-EDS元素マッピング結果

引用文献

  • 1)駒場ら:MoDTC添加油の潤滑効果に対する温度の影響,トライボロジスト,62,11 (2017) 35.
  • 2)山田ら:MoDTCの摩擦低減機構,日石三菱レビュー,43,1 (2001) 5.
  • 3)高木:MoS2族の層状構造と摩擦,精密機械,46,11 (1980) 1434.
  • 4)MI De Barros Bouchet et al. :Mechanisms of MoS2 formation by MoDTC in presence of ZnDTP effect of oxidative degradation,Wear,258,11-12 (2005) 1643.
  • 5)大津ら:MoP・ZnDTP 併用条件における境界潤滑特性とその潤滑機構に関する研究,トライボロジスト,63,10 (2018) 715.
適用分野
その他無機製品
キーワード
潤滑油、潤滑膜、モリブデン、Mo、層状、摩擦低減剤、低摩擦化、断面、TEM、EDS、膜厚、元素分布

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