概要
TD-NMR (Time Domain NMR) は、材料の分子運動性を評価できる手法として広く利用されています。近年では、粒子の濡れ性や分散性といった界面特性を評価する手法としても注目されています。本資料では、TD-NMRを用いた粒子の濡れ性・分散性評価と、得られた結果をハンセン溶解度パラメータ (HSP) 評価へ応用するアプローチについて紹介します。
TD-NMRによる粒子の濡れ性・分散性評価(1),(2)
粒子に接触または吸着している液体 (拘束された液体) とバルク液体 (粒子表面と接触していない自由な状態の液体) とでは、磁場の変化に対する応答が異なります。TD-NMRでは、評価したい粒子の分子運動性ではなく、評価したい粒子の周りにある液体の分子運動性を観測することで、粒子の濡れ性・分散性を評価します。
図1に粒子分散液中の液体の状態とその緩和時間を示しました。粒子表面に拘束された液体の緩和時間は短く、バルク状態の液体の緩和時間は長く観測されます。そのため、粒子分散液の緩和時間は粒子表面に拘束された液体が増える程、短く観測されます。粒子の濡れ性・分散性が良好であると粒子表面に拘束された液体は増えるため、緩和時間はバルク液体の緩和時間から大きく変化し短く観測されます。また、バルク液体の緩和時間と粒子分散液の緩和時間の変化割合はRSP値と呼ばれます。RSP値は下記の式 (1) から算出され、RSP値が大きい程濡れ性・分散性が良いことを示し、粒子の濡れ性・分散性の違いを数値化することができます。
【図1】粒子分散液中の液体の状態とその緩和時間
※ 上図はあくまでもイメージ図で実際はこのような束縛層を形成しているわけではありません。
ハンセン溶解度パラメータ (HSP)
HPSは、Charles M. Hansenが提案した物質の溶解性の予測に用いられる値です(3)。溶解度パラメータ値 (SP値、溶媒の溶解挙動を示す数値) を分散力項 (δD)、極性項 (δP)、水素結合項 (δH) の3成分に分割して、下記の式 (2) で定義されます。 これら3つのパラメータを3次元座標に置いたとき、対象となる物質のHSP値と溶媒のHSP値が近いほど互いに溶解しやすいことを示しています。
HSP評価は粒子の濡れ性・分散性の評価にも適用されています。HSPが既知の溶媒群に粒子を分散させ、粒径分布や沈降速度から分散性を評価し、その結果からHSPを算出しています。近年では、TD-NMRから得られるRSP値をHSP評価へ応用した事例が報告されています(4)。本資料では、報告事例を参考にしたTD-NMRによる粒子の濡れ性・分散性評価及びHSP評価への応用をご紹介します。
分析試料・分析方法
分析試料と測定条件を以下に示します。
試料粉末と各種溶媒の分散液は測定の直前に超音波バスで5分間の分散処理を行いました。
| 試料 | 市販アルミナ粉末 (99.999 % – Al) |
| 溶媒 | アセトン、アセトニトリル、カプロラクトン、1-ブタノール、クロロホルム、シクロヘキサン、シクロペンタノン、1-デカノール、N, N – ジメチルホルムアミド (DMF) |
| 試料濃度 | 6 wt% |
| 装置 | ブルカー社製 minispec mq20 |
| 測定温度 | 25℃ |
| 測定法 | CPMG法 |
結果
図2に算出したアルミナ粉末と各溶媒に対するRSP値のグラフを示します。
DMF、NMP、THFはRSP値が高く濡れ性が良い、ヘキサン、トルエンはRSP値が低く濡れ性が悪い、エタノールや2-プロパノールといった短鎖のアルコール類はRSP値が中間のため、濡れ性は比較的良いことがわかります。アルミナ表面は通常表面に –OH (水酸基) を持つためDMFやNMPといった極性の溶媒とは濡れ性が良いですが、ヘキサンやトルエンといった非極性の溶媒とは濡れ性が悪くなります。算出したRSP値はアルミナの表面特性を反映した結果が得られていると考えられます。
各溶媒のHSP値を3次元空間にプロットし、DMFからアセトンまでを良溶媒、エタノールからトルエンまでを貧溶媒としてハンセン球を決定しました。図3にアルミナ粉末のハンセン球を示します。解析から、評価したアルミナ粉末のHSP値はδDが17.10 MPa1/2、δPが9.66 MPa1/2、δHが9.76 MPa1/2となりました。HSP 値は3つのパラメータを3次元座標に置いたとき、近傍に位置する物質同士は親和性が高いことを示しますので、粒子の分散性・濡れ性の改善に応用できる可能性があります。
【図2】各溶媒中のアルミナ粉末のRsp値の比較
【図3】アルミナ粉末のハンセン球
まとめ
TD-NMR測定により、粒子の分散媒への濡れ性の評価と緩和時間からハンセン球を決定し、界面特性の数値化ができました。評価結果より粒子の分散媒への分散性・濡れ性の予測や改善に応用できる可能性があります。
参考文献
| (1) | 原 英之 「TDNMR の基礎と応用例」 ぶんせき 2021年 第12号 |
| (2) | 池田 純子 「TD-NMRによる粉体の「濡れ性」評価, HSP評価への応用」 |
| (3) | Hansen Charles 「The Three Dimensional Solubility Parameter and Solvent Diffusion Coefficient and Their Importance in Surface Coating Formulation」 Copenhagen Danish Technical Press (1967) |
| (4) | David Fairhurst, Ravi Sharma, Shin-ichi Takeda , Terence Cosgrove, Stuart W. Prescott |