概要
NMR入門講座⑥(T2210)では、化学結合に基づく2次元NMR測定法4種(COSY, TOCSY, HSQC, HMBC)を紹介しました。本資料では、分子の部分構造解析に役立つ2次元NMR測定法である1H-1H TOCSYの拡張版として1H-13C HSQC-TOCSYを紹介します。HSQC-TOCSYは1Hよりピーク分離の良い13Cを利用することで、より複雑な化合物の部分構造の把握が可能です。
分析方法・分析装置
分析方法 | 2次元NMR 1H-1H TOCSY 、1H-13C HSQC-TOCSY |
分析装置 | 500MHz NMR |
試料
スクロース重水溶液
結果
①1H-1H TOCSY
NMRスペクトルを解析する上で最初のステップとして、ピークを部分構造ごとに分類できると便利です。1H-1H TOCSYはH が連続する構造(スピン結合ネットワーク)をまとめて検出できるため部分構造の把握に役立ちます。
スクロースの2次元1H-1H TOCSYスペクトルを図1に示します。図1より、スクロースの構成単糖であるグルコースとフルクトースがそれぞれ格子状のピーク群として観測されており、部分構造の識別が可能です。
②1H-13C HSQC-TOCSY
1H NMRは検出範囲が10 ppm程度と狭くかつピーク分裂もあるため、1H-1H TOCSYではしばしばピークが重複し解析の妨害となります。そのような場合にはピーク分離の良い13Cを利用した1H-13C HSQC-TOCSYが有効です。
スクロースの2次元1H-13C HSQC-TOCSYスペクトルを図2に示します。図2の横軸は1H、縦軸は13Cです。通常の1H-1H TOCSYと同様に構成単糖のグルコースとフルクトースがそれぞれ格子状のピーク群として観測されており、部分構造の識別が可能です。1Hと比べると13C方向ではピーク重複が無く部分構造の帰属がより明瞭です。
まとめ
1H-13C HSQC-TOCSYは、分子の部分構造を把握可能な2次元NMR測定法であり、13Cを利用することで通常のTOCSYよりピーク分離に優れます。1H-1H TOCSYではピークが重複する複雑な化合物の解析に有効です。本測定は700MHz NMR(5mmCryoプローブ)の活用により、さらなる高感度・高分解能化が可能です。