概要
抗体のFc領域に結合するN型糖鎖はタンパク質の安定性や機能に影響を及ぼすことが知られており、抗体医薬品の開発・製造においては結合する糖鎖の種類や組成の違いが品質変動の要因になると考えられています。
FcR-IIIA-NPRカラム(以下、FcRカラム)は、N型糖鎖に起因するFc領域の構造変化を認識し、抗体依存性細胞傷害(ADCC)活性と相関のある抗体を分離可能なアフィニティ分析カラムです1)(図1)。
FcRカラムとインタクトMS解析技術を組み合わせることで、FcRカラムとの相互作用により分離した抗体をMSに直接導入し、各ピークに対応する糖鎖組成を推定することが可能になります(FcR-MS法)(図2)。今回は、市販のモノクローナル抗体NISTmAbを対象としたインタクト抗体*の解析事例を紹介します。
*インタクト抗体:プロテアーゼ処理等を行っていない状態の抗体
【図1】FcRカラムによる抗体分離の概要
【図2】FcR-MS法による抗体の糖鎖組成解析イメージ
試料
NISTmAb標準品
手順
モノクローナル抗体の品質特性評価の標準物質として開発されたNISTmAbを用い、FcR-MS法による測定を行いました。
LCで分離された3つのピーク(①~③)について、デコンボリューション解析によって多価イオンのマススペクトルを一価に変換しました(図3)。また、得られた分子量から糖鎖構造を推定しました(表1)。
【図3】NISTmAbのFcR-MS測定結果
【表1】NISTmAbの糖鎖推定結果
【図4】推定された糖鎖の構造
結果
NISTmAbに結合するN型糖鎖は約50種類の組成が報告されていますが2)、今回の解析では主に二分岐型糖鎖(G0F、G1F、G2F)が推定されました(図4)。
また、先に溶出した①のピークはガラクトース残基が少ない糖鎖の割合が高く、後に溶出した③のピークはガラクトース残基が多い糖鎖の割合が高くなっていました。末端のガラクトース残基はFcRとの相互作用を増強することが報告されており3) 4)、今回の解析結果と一致しています。このように、FcRカラムによる分離とインタクトMS解析を組み合わせて、ADCC活性に関連する糖鎖組成の違いを評価できました。
まとめ
FcRカラムとインタクトMS解析を組み合わせたFcR-MS法により、ADCC活性に相関のある抗体の分離と糖鎖組成の推定が可能です。本手法は抗体に糖鎖が結合した状態で測定するため、非対称な糖鎖の組み合わせを有する抗体医薬品も評価できます。
参考文献
| 1) | 寺尾陽介、山中直紀他、東ソー研究・技術報告第61 巻(2017) |
| 2) | Zhao J et al., J. Proteome Res, vol.20, 818−830 (2021) |
| 3) | Subedi GP, Barb AW, MAbs, vol. 8, 1512-1524 (2016) |
| 4) | Hatfield G et al., Front. Immunol., vol. 13, Article 972168 (2022) |